うさろぐ日記

”アフリカ、旅、貧困” 人生を哲学するブログ

なぜ日本の土壌は酸性土壌なのか?

酸性土壌とは

土を酸性にしている酸性物質で考えられるのは水素イオンやアルミニウムイオンである。pHメーターで土壌のpHを図る際に問題となるのが、土壌には土に吸着している酸もあれば、解離している酸もあるということである。解離しているものであれば、水を入れて振動させて出来た懸濁液に電極を差し込めば測定することが出来る。ここで、厳密にはpH7以下であれば酸性となるが、pH6.5-7というのは、現場ではほとんど影響を示さない弱い酸性となることから、pH6.5以下を酸性土壌ということが多い。ここで、土壌が酸性を示すということはこの液体に遊離の酸があるか、土の中の水と反応して酸性を示すような何らかの酸性物質があるかどちらかである。

 

この遊離の酸は有機酸*1であり、酸性物質はアルミニウム化合物であり、水素イオンは土壌粒子から完全に解離して存在しているが、そのような酸を活性酸と呼ぶ。一方、土に吸着されている水素イオンを潜酸性といい、これは塩化カリの溶液で処理してやらないと測定ができない。この水素イオンなどの活性酸は土壌酸性の強度を示し、酸性土壌として酸性物質を保持できる量、つまり箱の大きさを示したものが潜酸性または交換酸度という。

交換酸度とじゃがいもそうか病

じゃがいもそうか病は、じゃがいもの表面にかさぶたのようなぶつぶつが出来る病気であるが、対策が難しい病気でもある。この病気は収量への影響は少なく、食べられるので家庭菜園をやっている人は好いのだが、農家にとっては品質低下の原因となり、頭を悩ませる病気の一つである。

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左がそうか病に侵されたじゃがいも

出典:マイナビ農業

 

 じゃがいもそうか病の原因菌*2は、放線菌(ステレプトマイセス属)であることが分かっている。下記表からもわかるように、放線菌はアルカリ性の土壌を好む傾向が見て取れることから、じゃがいも栽培前に石灰をまいてアルカリ性に土壌を改良するのは、そうか病防除という観点からはよろしくない。

 

 

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土壌の微生物数に及ぼすpHの影響

出典:ホクレンの肥料

 と、話はそれたがこのじゃがいもそうか病、酸性域で発病が抑制されることが分かっているが、その際に水素イオン濃度を用いる測定方法pH(H2O)よりも、土壌の水素イオンやアルミニウムイオンの保持能力を塩化カリウムを用いて測定する交換酸度の改良のほうが重要であることが北見農試の試験で発見された。前述のpH(H2O)の測定では、土壌粒子から完全に解離して存在する水素イオンのみならず、土壌粒子の影響を受けて存在してる水素イオンも測定しており、土壌中の実態に近いことから近年では、こちらの測定方法が一般に利用される。以前は塩化カリウムを用いた測定方法が利用されていた時期もあったが、腐植質の多い黒ボク土では酸性を過小評価することから近年ではあまり利用されなくなってきた。また、作物の生育や土壌微生物の活動は土壌溶液の酸性、アルカリ性の強さに影響されるため、近年では純水を用いて酸性物質を抽出するpH(H2O)方式が土壌診断では用いられている。

 

なぜ、土壌はマイナスの電荷を帯びているのか?

土の固相を作っている、有機物や粘土が負の電荷をもっているからだが、その理由は、例えば鉱物から溶け出した4価の珪素(Si4+)がほぼ同じサイズの3価のアルミニウム(Al3+)で置き換わると、プラスの総量が4から3に減って、総体的にマイナスが増えていく。こうすることで、粘土の表面に負の電荷ができていく。

 

このように土壌は種類によって保持能力の違いはあるが(これはCECという値で表される)、そのネガティブの電荷をもつ手に水素イオンやアンモニウムイオンのような酸性物質で占められると土が酸性になる。このネガティブの手がすべてカリ、マグネシウム、ソーダ、カルシウムという塩基類で埋まると、これは水素イオンの供給がないことになるので、中性となる。そして、この塩基類の遊離の塩、とくに重炭酸塩が生じると、これがアルカリ性を呈するということになる。

 

なぜ、日本の土壌は酸性になるのか

大きな理由として、降雨量の多さがあげられる。日本では、平均して1,600mm - 2000mm程度の降雨量があり、太陽に熱せられて土壌から抜けていく水分である最大蒸発散量は年間800mmぐらいですので、これらの水は土の中を通て地下水に流れ、川へ排出され最終的には海へ抜けるということになります。水が地中へ抜ける際に、土壌にたまっていた塩基を溶かすことで酸性化していく。土壌中の養分の多くはカルシウム(Ca2+)、マグネシウム(Mg2+)、カリウム(K+)のように、水に溶けるとプラスの荷電を持ったイオンとなる。土壌はマイナスに帯電していることから、これらプラスの塩基を保持することが出来るがそのくっつき易さは養分の種類によってことなっており、プラスが一つのカリウムより見つつのMgやCaのほうが強く保持される。新しい養分が入ってきた場合は、強く保持されている方が弱い方を追い出すことで入れ替わっていく。土壌酸性化の原因となる水素イオン(H+)は土壌にかなりくっつきやすいので、カルシウム等の養分を追い出して徐々に酸性化が進行することになる。

マイナスイオンは土壌に保持されないの?

さて、ここまで読んだ読者の方は、それではマイナスイオンはすべて流れてしまうの?という疑問を持った方もいるかもしれない。養分の中で硝酸(NO3-)やリン酸(H2PO4-など)のマイナスイオンはすべて降雨とともに流亡してしまうのだろうか?これまでは土の粘土や腐食には、マイナスに荷電があると説明してきましたが、実は少しのプラス荷電もあります。したがって硝酸やリン酸はこれらのプラス荷電の影響を受けます。その影響の程度は、CEC(陽イオン交換容量)と同様にAEC(陰イオン交換容量)で表されますが、AECの値はCECに比べ小さく、pHが低くなるほど大きくなります。AECは腐植と粘土含量が多い黒ボク土でさえ、CECの10%程度でしかない。

マイナスに荷電されている硝酸はどのくらい土壌に留まるの?

黒ボク土畑では土壌表面に施用された窒素肥料は、化成肥料であれ有機質肥料だあれ微生物によって分解され、最終的には硝酸となって浸透していきます。肥効の持続期間は、硝酸に分解されるまでの期間と土壌中に保持される期間に影響される。窒素が硝酸まで分解されるスピードは土壌温度によって左右される。一方、保持期間は下記図の通り、降雨とともに徐々にかほうに移動します。調査によると、降雨量約1000mmで1メートル移動し、その期間は約6か月かかったと言われています。つまり、3月頃に施肥された肥料は、1か月後に深さ20cmの根群に達し、2か月後には40cm下方に溶脱することを示していいる。一方、砂丘畑では黒ボク土の5倍程度早く、200mmの降雨で1メートル移動すると報告がある。そのため、窒素飛行を維持するためには土質及び降水量を考慮する必要があるといえる。

言い換えれば、硝酸は土壌表層から移動しやすいため土壌表層に施肥しても根域まで達するため、表層施肥でよいことが分かる。

次にカルシウムとマグネシウムですが、表土に施肥しても根域全体に浸透移行することがないため、元肥として入れる場合は根域周辺へのスポット施肥もしくは全総施肥をするのが効果的である。

最も移動しにくいのがリン酸であるが、もっとも溶脱しにくいのもリン酸であり、黒ボク土に多いアルミニウムに保持されると固定化して全く動かなくなり、数十年以上は土層内に留まることが出来る。したがって、黒ボク土では表土から浸透移行することが全く期待できない。施肥はできるだけ根の地悪に行くように元肥主体で施肥する必要がある。

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硝酸態窒素の移行速度

出典:https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/attach/pdf/tottori01-3.pdf

日本の土壌が酸性である理由

日本では、多量のアンモニア肥料が利用される。硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸カリウム、塩化カリウム等であり、これらの肥料は生理的酸性肥料であり、科学的には中性であるが、アンモニアを微生物が分解する硝酸への酸化の過程で、水素イオンが出てくる。また、土壌中で肥料成分が作物に吸収された後に残る硫酸イオンや塩素イオンなどの酸性の副産物も酸性化へ寄与しているとことなる。

 

*1:酸性を示す有機化合物の総称であり、多くはカルボン酸である。土壌が吸着している酸性物質がアルミニウム化合物である。

*2:似た病気に粉状そうか病という病気があるが、これは原生生物による病気なので、別の対処方法が必要である。