有効態リン酸の適正量と生育
リン酸は、他の塩基類であるカリや石灰などと違い交換態として土壌に保持されることはほとんどなく、土壌中の鉄やカルシウム、アルミニウムと結合して存在している。
同じリン酸として土壌中に存在するが、
カルシウムと結合 → 作物に吸収されやすい
アルミニウムや鉄と結合 → 吸収されにくい。
土壌が酸性に傾いていると土壌のなかにアルミニウムや鉄と溶けだしてきて、リン酸と結合する量が多くなり、逆にアルカリ性(pHが7.0以上)が高いと石灰と結合し難溶性となり作物に吸収されにくくなってしまう。
参照:https://fluence.science/monitoring-ph-for-cannabis/
土壌条件とリン酸利用効率
日本の土壌は、関東以北や九州の火山の東側の台地などの傾斜地を中心に、黒ぼく土と呼ばれる土壌が広く分布しており、国土全体の19%の割合を占め、これは日本で一番多い土壌であり、国土全体の22%を占める灰色低地土の次に多い土壌である。
黒ボク土の主な母材は火山灰であり、これは活性のアルミニウムを多く含んでいる。土の表層では、この火山灰に有機物が分解されてできた腐食が結合し、団粒構造を形成しており、排水性がよい軽い土壌のため物理性がよい特徴がある。
一方、土壌中の活性アルミニウムはリン酸固定能力が高いので、作物は土壌からリン酸を吸収できずリン酸欠乏となることが多い。土壌のリン酸吸収係数が1500以上の土壌が黒ボク土に分類されるが、リン酸施肥量を増やして、作物にリン酸を吸わせることで高い生産性を維持してきた一方、近年ではリン酸過剰な土壌が多くみられるようになってきている。
水田状態では、畑に比べてリン酸が吸収されやすい状態となる。その理由は、土壌が湛水により還元状態になると難溶性のリン酸第二鉄が溶出しやすいリン酸第一鉄に変化するためである。
リン酸吸収と地温
リン酸は、窒素やカリと比較して低温で吸収されにくくなる特性があり、地温20℃から地温10℃になると吸収比率は10分の1に低下することがわかっている。下記表はトマトの養分吸収に及ぼす地温の影響をまとめたものであるので参照してほしい。
トマトの養分吸収に及ぼす地温の影響
地温(℃) | 硝酸態窒素 (mg) | リン酸 (mg) | カリ (mg) |
10 | 26.3 | 2.7 | 42.9 |
15 | 62 | 9.9 | 79.2 |
20 | 86.9 | 22.1 | 112.6 |
吸収比率 (10℃/20℃ | 0.3 | 0.12 | 0.38 |
資料:杉山の表をもとに筆者作成
リン酸の施用効果の高い作物 → 玉ねぎ、インゲンマメ、レタス、ニンニク、サラダ菜、ホウレンソウ
施用効果の低い作物 → 小松菜、サトイモ、サツマイモ、大根、スイカなど。
小松菜やダイコンが玉ねぎやレタスよりリン酸の施用効果が低い理由は、リン酸肥料が少なくてよいということではなく、小松菜やダイコンはリン酸の吸収能力が高いことから土壌中の難溶性リン酸であるアルミ型リン酸等を吸収可能だからである。
各種野菜の収量とリン酸施肥の影響
たまねぎ
タマネギはリン酸の施肥量を増やすと収量向上効果が高いことが兵庫県農試の試験結果で示されている。
施肥効果としては、有効態リン酸が80mg/100gで収穫量が上限に達し、106mg/100gで最大となると、報告している。
資料:兵庫県農試提供
ホウレンソウ
ホウレンソウもリン酸施肥効果が高い作物の一つであり、土壌中の有効態リン酸含量が80mg/100gまではリン酸施肥とともに増収効果が見られたが、それ以上の施肥は効果がないことがグラフから見て取れる。
レタス:
レタスは100mg/100g付近で収穫量が最大となる一方、それ以上の施肥は生育が旺盛となりすぎて、結球せず減収する結果となった。
ダイコン:
ダイコンは100mg/100g以上のリン酸施肥で減少傾向を示した一方、10-100mgでは大きな差を示すことはなかった。
有効態リン酸の適正含量
下記表に、各種野菜の有効態リン酸の適正値を示す。
有効態リン酸含量が300mg/100mg以上の土壌ではリン酸は無施肥でよいとしている。